ビジネスインキュベーション施設の成果決定要因に関する探索的研究−支援成果と満足度との関係性から考察する『都市』と『地方』の差異−
丹生晃隆(2016)
「ビジネスインキュベーション施設の成果決定要因に関する探索的研究−支援成果と満足度との関係性から考察する『都市』と『地方』の差異−」
日本国内におけるビジネス・インキュベーション成果に関する研究に関しては、丹生晃隆氏が最も力を入れている印象。都市と地方という、地域の観点からインキュベーションの成果を検討している点は参考になります。参考文献にある丹生氏の他の論文も必読です。
(概要)
- 基本モデルでは、支援従事者の経営支援(全般)や公的支援に関わる支援スキルが、オフィス環境、IM支援、イベント・セミナーに対する企業の満足度に繋がり、会社設立や卒業企業に関わる成果が生まれていく支援パスが示された。
- 都市モデルでは、経営支援全般に関わる支援スキル、中小企業診断士や経営コンサルタントとの連携、プレインキュベーションの設置、これらが、満足度としてIM支援への評価と繋がり、成果指標として、地元定着率に反映されていく支援パスが示された。
- 都市においては、IMによるサポートが入居企業から評価されているが、弱みとして、会社設立や卒業企業に関わる成果に繋がっていないことが示唆される。
- 地方モデルでは、経営支援全般と公的支援に関わる支援スキル、メディアとの連携、プレインキュベーションの設置や施設の新しさ、支援従事者の常駐度合い、これらが、オフィス環境や受付秘書サービス、セキュリティの満足度に繋がり、卒業企業や生存率に関わる成果に繋がっていく道筋が示された。
- 地方においては、成果に繋がる道筋が複数示されているが、満足度指標としては、施設のハード面に関わるものが軸となっている。現状では、IMによるサポートが入居企業側に十分に認識されていない可能性がある。
(詳細はこちら)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/pdf/ronbun1605_04.pdf
起業家教育政策に関する概念的枠組み:政策と経済目的の合致
Allan O'Connor (2012)
「起業家教育政策に関する概念的枠組み:政策と経済目的の合致」
日本でも起業家教育に関する様々な施策・政策が行われているのを見聞きします。中小企業支援や地域産業振興に関する政策以上に、目指す成果が曖昧で、なおかつ長期的な視点が必要になる分野かと思います。
ちなみに、海外では思いのほか研究・検証が蓄積されてきているようです。国内の起業家教育は理論やエビデンスに基づき体系化、政策立案されている印象はなく、何となくの「擬似的なビジネス体験」や「ビジネスプランコンテスト」といったものでお茶を濁している感がありますが、果たしてこれらの成果・効果について振り返りが行われる日が訪れるのでしょうか。
(概要)
- 起業家精神の多義性に起因して、起業家教育に関する政策の経済的なメリットを実証することは困難である。
- 政策立案者や教育者たちにとっては、効果的な起業家教育プログラムの組成に資する理論的・概念的な根拠の欠如も原因の一つである。
(詳細はこちら)
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0883902612000857
RIETIにおける「エビデンスに基づく政策」の議論
ビジネス・アドバイス
what works centre for local economic growth (2016)
「ビジネス・アドバイス」
「地域経済成長センター」のレポート、ビジネス・アドバイス編です。明確な目的を持つことの重要性を論じると同時に、頻繁な政策の変更によって、政策効果が不明確なものとなるという弊害が指摘されています。
(概要)
- ビジネス・アドバイスを適切に評価するために、費用対効果を含めて、明確な目的・目標を策定しなければならない。
- 短期的には、ビジネス・アドバイスは、雇用よりもむしろ生産性の向上をもたらす。
- ビジネス・アドバイスを実施するうえでは、より良い成果につながりうる関係性に依拠したハンズオンのアプローチが推奨される。
- 地方自治体または全国的に提供される政策、あるいは公共または民間セクターによってなされる政策の成功率には明確な違いはない。
- 頻繁な政策の変更によって、ビジネス・アドバイスの機能に関する理解が不明確なものとなりうる。
(詳細はこちら)
地域に基づくイニシアチブ:エンタープライズ・ゾーン
what works centre for local economic growth (2016)
「地域に基づくイニシアチブ:エンタープライズ・ゾーン」
英国にある地域経済成長に寄与する政策分析などを行う「地域経済成長センター」のレポートより。本レポートでは、英国や他のOECD諸国における地域経済・産業政策の評価に関する諸研究をレビューしています。課題も整理されており、こういった取り組みの蓄積が重要だと改めて感じられる内容です。
(概要)
- エンタープライズ・ゾーンは雇用にプラスの影響を及ぼしうるが、意思決定者は他地域からの雇用の移動(流入/流出)という点を真剣に懸念する必要がある。
- 地域に根ざした政策の目的は明確に定義されなければならず、具体性があるほどよりよい成果が果たしうる。対象地域、隣接地域、時間の経過に伴うインセンティブの影響は、現地の状況や目的に照らして考慮する必要がある。
(詳細はこちら)
自治体における中小企業政策と政策評価-大阪市のビジネスマッチング支援のケーススタディ-
本多哲夫(2016)
「自治体における中小企業政策と政策評価-大阪市のビジネスマッチング支援のケーススタディ-」
少なくとも日本国内では数少ないであろう地方自治体による中小企業支援施策の政策評価に関して、「ビジネスマッチング」を取り上げて検証している貴重な研究。
イメージ的には主催者側の口実づくりとして、そのわかりやすさから多くの行政や支援機関が取り組んでいる印象のビジネスマッチングですが、実際のところどれだけの案件が成果に結びついているのでしょうね。
(概要)
- これまで政策効果として存在するであろうとの憶測にとどまっていた「業績・雇用の改善・下支え」という効果を定量的に明らかにした。
- 定性的な分析をベースとして、マッチングによる「外注先の確保」、マッチングナビゲーターとの接触あるはそれを媒介とした他企業・機関との接触による「外部からの知識・情報・刺激・ネットワークの流入」という効果を明らかにした。
(詳細はこちら)
http://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/infolib/user_contents/kiyo/DBa0670201.pdf
ランダム化比較試験による、エビデンスに基づく政策
ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)による政策効果の測定・評価に関する参考文献など。RCTは政策評価の有効な手法。
- 家子直幸・小林庸平・松岡夏子・西尾真治 (2016)「エビデンスで変わる政策形成~イギリスにおける「エビデンスに基づく政策」の動向、ランダム化比較試験による実証、及び日本への示唆~」三菱UFJリサーチ&コンサルティング、政策研究レポート(2016年2月)
(詳細はこちら)
http://www.murc.jp/thinktank/rc/politics/politics_detail/seiken_160212.pdf
(詳細はこちら)
http://www.murc.jp/thinktank/rc/politics/politics_detail/seiken_141010.pdf
- Triin Edovald, Teo Firpo, Isobel Roberts (2016)「イノベーション、起業家精神、成長におけるランダム化比較試験の実施:入門ガイド」Nesta and Innovation Growth Lab (IGL)
(詳細はこちら)
http://www.nesta.org.uk/sites/default/files/a_guide_to_rcts_-_igl.pdf